子どものスピードアップを考えるとき
前田診療所 奥田麻子
子どもを『早く!』とせかして、早くなることはないようです。私はこのことを、アメリカ人のご夫婦に教えられました。
当時、11歳の長女を筆頭に、3歳になったばかりのみのり迄、子ども4人を連れて、彼らと小旅行をしていたときのことです。初日、朝起きたとき、食事のとき、民宿を出るとき・・・・事ある毎に『早く、早く』とせかしていた私を見かねてか、ご主人さんのほうが、
『麻子、子どもをせかして、本当に早くなるのかい?』
と私に尋ねました。
『必ず失敗させるか、気持ちを疲れさせるよ。』
と。
確かに、もう一人でできるはずだと上の子どもをせきたて、急がせた結果、泣きすがられたり、変な失敗をされたり、少なくとも必ず子どもたち同士の間がぎすぎすとするものです。特に兄弟のお手本として一番うまくやることを強要される上の子は、いらいらかぐずぐずすることになっており、なるほど、これは急がば回れかもしれない・・という気は、それを聞いたときに、ピンときました。
そのときは、トイレを済ませることや道中持っていくおもちゃ類を選びだすことこと、簡単な軽食を詰めること、水筒に飲み物を詰めること、荷物を持ち出すことなどを『早く!早く!人を待たしてはいけない!』と子どもたち4人をせかしていたのですが、気がついたら、彼らふたりが手伝ってくれて、あっという間に子どもたちの支度は終わり、私だけが残っていました。彼らは、車から
『子どもの用事はすんだ。あとは麻子本体だけだよ。』
と声をかけ、ニヤッと笑って言いました。
『子どもは手伝ってやるに限るのさ。』
それからは、一緒にいた2週間の間、私は彼らの手前もあって、子どもだけに 『早く!』とがんばらせることはできず、常に4人のそれぞれ一人一人を手伝う羽目になったのです。ところが予想に反し、ずっとその方が早くことが進むこととなりました。おまけに子ども達が子ども同士お互いをすごく手伝うようになっていきました。
もともと、上の子というものは、自分のことを好きでいてくれる下の子の面倒を見ることが好きなものです。たとえば私が一番上の子のお手伝いを一番先にすると、一番上の子は、手持ち無沙汰になったぶん、自由に遊ぶこともあるものの、だんだん面倒を見るまねをしたがるようになります。
もちろん、最初のころは、4人いれば母親が4人とも手伝うことにはなるのですが、それは、子どもたちの気持ちの余裕を作り、結果そのあとのスピードはたいしたもので、た兄弟も母親もお互いに仲むつまじくお手々をつないで走って出発することができます。
上の子は、いつも私と同じことをしたがるようになります。自分にもそのチャンスがあることに自然に気がつくのです。例えば、私が包丁を持つのを見て、同じように、冷蔵庫からきゅうりを出して、包丁をあててみるのと同じように、下の子を世話する私を見て、上の子も、下の子を食べさせたり、下の子の服を着せたり、靴を履かせたり・・・し始めます。それは当初、かえって時間がかかることもあるけれど、やっぱりだんだんうまくなるのです。たとえありがた迷惑でも、○ヶ月後を夢見て、ほめ続けるうち、それはやがて本当に上手になり、こちらとしては心底、喜びのため息混じりにほめることとなっていきました。
コツは、まず母親自身が上の子のことから、楽しそうに、そして優しく優しく手伝っていくことかなと思います。そのうち、私たちと同じやり方で、下の子の世話をするからです。また、『楽しそうに・・』と言うのは、楽しそうに見えれば見えるほど、子どもというものは早い段階でまねをし始めるからです。
下の子の世話をしていて、食事をこぼす、ひっくり返す、服をぬらすなどは必ず起こすものですけれど、『イラン事をしないで自分のことをしなさい。』とか、『服を汚すならしないで。』などといわず、失敗ははっきり指摘せずにむしろ、『大丈夫、大丈夫。』と言って、始末してあげることです。一生懸命、自由な試行錯誤の上、本当にうまくなります。
上の子が下の子を世話し始めるのは、上の子も下の子もまだ母親が世話をしているさなか、もちろん、突然始まるものですが、『まあまあ、これはすごい。まるでおかあさんみたい!』などとほめながら、さりげなく目立たないように手伝って(せっかくのお母さん気取りを壊さないように)、失敗を減らすようにしてあげてかまいません。
一般論と逆なのですが、子どもはなんでも、一人でやらせて『完全に一人でできた!』という自信をつけてやろうとするよりも、とにかく一回目を失敗せず、比較的楽に成功させてやることのほうが、持てる力を伸ばせるものです。うれしい結果をみせてやることで、再試行のエネルギーや、「次はもっとうまくやってやろう」などの向上心が沸くからです。
目立たないように手伝った分は、うまくごまかせるもので、それをまるで一人でできたかのように思わせておいてやります。一回目というのは、そんなふうに、子どもにとっては、それが楽しく思えるか、好きになるか のとても大切な分岐点なのです。
結果、とても満足が得られると、また施行するのですが、今度はどこかうまくいかない部分がだんだん出てきたものを、「こういうふうになるはずだ」というものが見えているので、子どもらしいあの手この手で、試行錯誤します。工夫した挙句やはり困っているようであって、こちらにチラッと何とかならないかとサインを送ってきたら、そこで説明しながら手伝ってやると、とてもうまく吸収してくれます。
そうやって実際にさまざまなことを経験することで、子どもというものは親の常識など易々と覆していろいろといい工夫を重ねたり、親のしていることを本当によーく見て参考にしていたり・・・など、その知能活動や、観察眼には驚かされるばかりです。
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